【前回のあらすじ】
女性陣の機嫌がすこぶる悪い。
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古代遺跡、再び
どこまでも青く晴れ渡る昼下がり、爽やかな風がジャングルの木々を揺らしながら吹き抜けていく。
「教授はお仕事で、あの飛行機に乗ってらしたんですか?」
ゆったりと歩きながら尋ねる理香に、教授はうなずいた。
「目的はカスピ海じゃよ。古代ケルト人の遺跡が見つかっての。調査に行こうとしてたんじゃ」
「その遺跡のことが気になりませんか?」
「そりゃのぉ。じゃが、わしはここの生活もけっこう気にいっとるぞい。毎日が発見の連続じゃし……。こうして未開の土地を探検するのは、わしにとってはよろこびなんじゃ」
こうして若い女性ともデートできることじゃしのぉ、とでも言葉を続けるかと思ったら、そこで教授のセリフ終了。意外!真面目なところもあったんですね!
「教授、目の輝きが違いますよ」
笑いながら前方に視線を返した理香は、小さく声をあげた。
「あ!これって……!」
「おお!」
良かったですね、教授!
大発見じゃないですか!
もっともこの遺跡は、前回記事で絵里奈&沙織ペアが見つけていますけどね!
「すごいですね、調査してみましょうよ!」
はしゃぐ理香に、教授の現実的な一言が発動。
「じゃが、島からの脱出には何の手助けにもならんぞぃ」
教授ー!!
この島に来て以来、はじめてのまともな発言じゃないですか!?
感動する私。しかし、教授よりはるかに浮かれている理香の耳には届かなかった。
「いいじゃないですか!まるで映画を見てるみたい!」
「ふぉっふぉっ!これは現実じゃよ。だから、なおのこと面白いんじゃ……」
現実だから面白い。この気持ちは分かる気がしますね。
誰かの手で創作された物語も面白いですが、歴史上の人物や実在の物語がそれ以上に人々の興味をひくのは、それが実際にあった出来事……すなわち現実だからではないでしょうか。
遺跡関連でたとえるなら「トロイの遺跡」。伝説を真に受け、本気で遺跡を探すシュリーマンを周囲は馬鹿にした目でみていました。しかし諦めることを知らないシュリーマンの前に、その遺跡はついに神話の中から姿を現したわけです。その衝撃はいかほどのものだったのか。それほどに "現実" とは絶大なインパクトを与えてくれるんですよね。
その間にも理香は興味津々で質問をし、一つ一つ熱心に回答する教授。
そして教授は厳かに言った。
「この遺跡の形態に非常に類似した文明を、わしはひとつ記憶しておる」
ア ト ラ ン テ ィ ス !
レ ミ ン グ ス ! !
ただの無人島が、いきなり伝説級になりましたね。
一瞬、教授の頭がおかしくなったのかと思いましたが、暑さにやられたのでもブラフでもなく、ガチ発言でした。
さすがの理香も困惑を隠せない模様。
私は困惑を通り越して目が点になっている。
「ひょっとして、ここがそのアトランティスかも知れないと?」
「そうかも知れんし、関係がある遺跡なのかも知れん」
「それってば、大発見ですよ!」
「そうじゃ。こう見えても、わしは震えとるよ。興奮で切れそうじゃい」
切れそうって脳血管? 教授大丈夫か? フラグ立ってないか?
「……じゃが、何の関係もないかも知れんのじゃよ」
あっ、良かった。思ったより冷静だった。
「神殿がありますけど、中に入ってみますか?」
理香の誘いにも即座に応じず、まずは神殿の外から慎重に調査を開始する教授。その調査によると、神殿は特殊な土(ミカテックロイド)で出来ており、教授もお目にかかったことのない300万年前の土とのこと。細工しやすく、並外れた耐久力を持ち、地球上でもっとも古い地質からしか採掘できないらしい。ドラクエでいうところのオリハルコンみたいなものか?
しかし300万年前には、人類は存在していない。あるいは人類は存在していたのか?今では幻となった土を使って、神殿を作り上げたのだろうか?
「教授、私達って今ものすごい瞬間に接しているのではないでしょうか?」
理香の言葉に、急に重みが出た。
「その通りじゃ!わしも、これ以上気取っちゃおれん」
教授の言葉からは重みが消えた。
「神殿の内部に突入じゃ!くれぐれも用心せいよ」
いざ、神殿の中へ……
「思ったよりすんなり入れましたね」
罠を心配する理香は、何事もなく神殿内に入れたことでほっと息をついた。
「きっと開館時間内なんじゃろ」
笑顔で答える教授。能天気にみせかけて本当に能天気なのが教授らしい。
すでに何者かが踏み込んだ形跡もあり、罠の心配はなさそうだ。
まずは右の道へ進むと……
これ見よがしの巨大鉄球と謎のスイッチが。
なんだこのお察し感。
左側の道にも謎のスイッチがあり、危機感なくONにする教授。
こういうときに元気よくスイッチを押すことができる性格は、考古学に向いているのか、いないのか。
針山を装置で動かして突破し、
壁画?のある部屋に来た。
「壁画かい?」という教授に対し、「地図のようにも見えますよ」と、理香の中で地図説が確定。「どこの地図でしょう?」「この時代に地理が分かっているだけでも驚きですけど」と、教授を完全無視して持論を展開する理香。
教授、突然の雄叫び!!
貴重な遺跡を探検中だというのに、誰もかれもが自由すぎる。
教授によれば、これは世界地図だということ。さらには大陸移動によって世界が分割される前の一つの大きな地図らしい。
しかし同時に疑問が残る。300万年前に文字を持ち、世界の地形までも知っている。そんな民族がはたして存在したのかどうか?
"文字" に関連する有名なオーパーツとして、ファイストスの円盤がある。印章によって言葉?を残したとされ、その文字は現在でも解読されていない。もし教授と理香が発見したこの壁画を持ち帰ることができれば、歴史的において貴重なオーパーツとなることは間違いない。
しかし自らが培った知見を越える遺物を目の当たりにし、機知が追いつかずに吠える教授。
「教授、落ち着いてください」見かねた理香が声をかけた。「解決する方法が一つあります」
「なんじゃい」
……馬鹿にしてるのかな?
あっ、納得しちゃうんだ!!
いや、それでいいなら、もうどうでもいいんだけども!!
そして壁画の横にあるスイッチを押すと、音を立てて壁画が動き、さらに最奥部へと続く隠し通路が現れた。
最奥部にて
そこには祭壇のようなものが据えられ、台座には何やら光る物体が差し込まれていた。
「あら、何か光ってるわ」
二人は台座に近づき、光が反射するそれをまじまじと見つめた。
「何でしょう? 杖みたいな……?」
「ううむ、たぶんこれは儀式の時などに使われとったものじゃろう」
「すっごい宝石が一個ついてますね」
「絵里奈さんがよろこびそうじゃの」
「持って帰りますか?」
「そうじゃな。大事な文化遺産じゃ、そぉっとな……!」教授は慎重な手つきで杖に手を伸ばした。「しっかし、こりゃひょっとするとノーベル賞ものじゃぞい!」
……ノーベル賞ものじゃぞい……
ああ、なんてことだ。このシチュエーションは「戦地から戻ったら、彼女にプロポーズするんだ」と同じくらいのフラグ立て!
いま、教授の命の灯が尽きようとしている。
教授、抜いてはいかん!
抜いた瞬間、四方八方から罠が飛び出して……
きませんでした。
恐ろしいほどあっさり『古代遺跡の杖』を手に入れた。
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