「名探偵ホームズ 霧のロンドン殺人」は、1988年5月13日にトーワチキから発売された『ホームズ三部作』の第二作目である。
タイトルからも分かるとおり、コナン・ドイルの手によって生み出され、世界中の人々に今なお愛さ続ける名探偵 シャーロック・ホームズが主人公のアドベンチャーゲームだ。
このゲームを知るためには、まず前作について語らなければならないだろう。
「迷探偵ホームズ」の名を欲しいままにした、クソゲーと名高い前作を……。
シャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件
1986年12月11日、トーワチキは一つの迷作を世に放った。
それが「シャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件」である。
タイトル画面で令嬢が誘拐されるという、ある意味で斬新な作り。
そして突然この画面。何の説明もなく、当然のように依頼人など現れない。
何も語らずとも、上記画像だけで「早くも不穏な空気」を感じるさせるのが凄い。
さすがトーワチキ。
しかしあえて語ろう。
なぜ、このゲームがクソゲーと呼ばれているのか?
以下、主な点をあげてみた。
・タイトルは誘拐事件だが、じつは誘拐はあまり関係ない
・主な目的が、最初から いつの間にか敵組織(パパイヤ団)の壊滅にすりかわる
・ホームズは通行人にミドルキックや飛び蹴りを加えることにより、「資金調達」及び「情報収集」を行う
・回復アイテム(くすりびん)が高額である上に、一つしか持てない。うっかり重複して購入すると「今持っている薬ビン」か、「新しく購入した薬ビン」を捨てなければならない(お金は当然戻ってこない)
・謎解きの難易度が高すぎる(攻略本を使わず自力でやるなら、寝ても覚めてもこのゲームをやり込む必要がある)
・説明書に「2コンは使用しません」と書かれているにも関わらず、2コンを使わなければ絶対にクリアできない仕様になっている(最後のステージで2コン操作必須)
これだけでも、すでにクソゲー臭がプンプンしていることがお分かりいただけるだろう。
甲高くて間抜けな音楽と共に、道行く人々に蹴りを加えるホームズ。
誰に対しても容赦ない飛び蹴り。これがトーワチキホームズ。
上記の有様により、どのような批判 感想が舞い込んだのかは知る由もないが、2作目はこれらの反省を活かしたのだろう、良識的なアドベンチャーゲーム路線へと変更された。
名探偵ホームズ 霧のロンドン殺人事件
ストーリー
ある晩、ホームズとワトスンの元へ、ひとりの若い女性がやってきた。
彼女の名前はベロニカ・ノートン。父が出かけたきり戻らないのだという。
「今までにこんなことはありませんでした。どうか父の行方を捜して下さい」
彼女の依頼を受け、ホームズは捜査に乗り出す。
いっぽう、ホームズの兄・マイクロフトからも電報が届いた。友人が亡くなったのだが、どうも殺人ではないかというのだ。
兄からの依頼も受け、複数の事件を同時に追っていくホームズ。
その先に待ち構えていたものは……。
ゲームの概要
前作が「ミシシッピー殺人事件」のように主人公を動かすゲームだとすれば、今作は「ポートピア連続殺人事件」のようなコマンド式アドベンチャーである。
アクション要素がなくなっただけでも、だいぶ楽になった……と思いきや、そこはトーワチキ。またしても謎の鬼畜仕様でプレイヤー(私)を追い込んでくれた。
以下、主な鬼畜要素である
・重要アイテムが手に入らなくても、何も問題ないかのようにシナリオが進行する
・逆に、手に入れなくてもクリアできる(つまり無くても問題ない)アイテムや情報を入手した際に「重要です」といわんばかりの音が鳴る
・虫メガネ捜索パートの判定がシビアすぎる。とくに終盤、某アイテムを手に入れるのに1ミリでもずれると「べつに変わったところはない」といわれる
・基本的に虫メガネ探索は「何か探すものがあるとき」に表示されるが、なにも手に入らないのに虫メガネ探索できる画面がある(必死に探し回るも何もない)
・広いロンドンを移動するのに「馬車に乗ったほうがいいですよ」と言われるが、これは罠である。資金が底をついた時点で詰み(シナリオ続行不可)
また「プレイヤーにとって」非常に重要な情報が、クローズアップされていない。
この「電報を打ってから出ないと会えない」というのは、非常に重要な情報である。
なぜなら、電報を打つためにはお金が必要であり、警部に会わなければ捜査が進行しない。=お金がなくなって、電報が打てなくなった時点で詰みである。
馬車に乗るのもお金がかかるので、「馬車に乗ったほうがいい」という助言に従って操作を進めていくと、思いがけない結末(資金不足によるゲームオーバー)が待っている。
私です。馬車に乗りまくって、最後の一歩手前で詰みました
※しかし真に恐ろしいのは「お金がなくなったから詰み」ということに気づかなければ、解決しない捜査にひたすら打ち込み、永遠にゲームの中を彷徨うことになるという事実である。
(「これ以上は進めません」等の親切メッセージなど、当然のようにあるわけがない)
ゲームクリアの必須ポイント
このゲームで詰まったときは、だいたい次の方法で解決する。
・登場人物の話を最後まで聞く
・電報を打って警部らに会いに行く
・自宅へ戻り、ホームズかワトスンの意見を聞く
この中で一番見落としがちなのが「登場人物の話を最後まで聞く」ではないだろうか。
この「霧のロンドン殺人事件」では、会話が何度も途切れる。
話しかけても、いちどにすべてを語ってくれないのである。
だから何度も何度も同じ質問を繰り返し、相手が「絶対にこのセリフしか言わなくなった」という着地点まで、一つずつ質問を続けなければならない。
これが非常に大変な作業なのである!!
例えば上記の例でいうと、見えている質問だけでも
・アンナのこと
・ロナルドのこと
・ノートンのこと
・バガテルクラブ
・ゲームメンバー
・死因のこと
という6つの質問がある。(十字キー:右でさらに別の質問が表示される)
一例だが、ここで「アンナのこと」について一度だけ質問しても駄目なのだ。相手は一つの質問に、いくつもの回答を持っている。
「アンナのこと」について4回質問して、3回目・4回目の回答が同じなら、そこで初めて「相手の回答をすべて引き出した」ことになる。
しかも「観察することで新たな回答がふえる」等の分岐があるため、最終的に何度も同じことを尋ねる必要があり、その数は膨大。
「でもそんなの、アドベンチャーあるあるでしょ?」
という方は、これを見て欲しい。
▲ロンドンの一区画と、同じような建物群
▲ロンドン市内は、黒い部分全部だと思ってほしい
こんな見分けのつかない町並みで、かつ広いロンドン市内を歩きまわる(歩くスピードが遅いので多大な苦痛を感じるも、馬車に乗ってお金を失うわけにいかない)ため、一度詰まってしまうとプレイヤーのHPを削るのに十二分の威力を持っている。
うろつく内に建物の場所は把握できるようになるが、それでも(プレイヤー自身が)瀕死状態に。
意味もなく鳴りひびく効果音の謎
このゲームでは「プレイヤーを惑わせるに相応しい謎の効果音」が目白押しである。
たとえば以下の画面。
とあるレストランの厨房で、フライパンを調べると……
チャララチャララチャー!
……と、いかにも「重要な情報です!」という効果音が鳴り響くが、もちろん捜査上何の意味もない完全なトラップである。
また、同様にして入手した「ロンドンの風景画」も、あれほど意味ありげな前振りがありながら、結局その重要性を示さないままに事件は終息した。
誰に見せても平凡なコメントしか返ってこない風景画。それでも私は最後まで人に見せつづけ……結局その意味が分からないままであった。
必ずしも発生しないイベントの謎
前述のとおり、私はお金がなくなって詰んだので、いちどこのゲームを最初からやり直しているのである。
そこで驚いたのが、まったく同じストーリーを辿らないことであった。
たとえば、そのひとつに「パブ・ポセイドン」がある。
某人物が殺されたあと、1回目(初見プレイ時)はここにきて情報を得ることができた。
しかしやり直した2回目は、扉が閉ざされたまま入れないのである。
何故!?
レストレード警部の話を、最後まで聞かなかったのが原因? と考えるも、それに確信があるわけではないので、真相は闇の中に消えた。
入手できない重要なアイテムの謎
前述とは逆に、イベントの発生に失敗して入手できないアイテムがあった。
それが私の場合においては「紙切れA」である。
このゲームでは、一枚の絵を6枚にやぶいた「紙切れ」なる重要なアイテムが登場する。
紙切れと言っても、もとは6人の男が一枚の絵に描かれた肖像画であり、いわば写真代わりの品である。この紙切れがすべてそろうと、その裏に重要なメッセージが隠されているのだ。
▲紙切れは、A~Fまである。
ところが、その紙切れAが手に入らなかった。
これは、よく分からずにプレイしたが故の事故のようなものだと思う。
説明書もなしにプレイを始めた私は、よく分からないままグレグスン、レストレード両警部に同時に電報を打った。
あとになって知ったのが「電報を打っても、会えるのはどちらか一人だけ」であること。
そこでグレグスンに会うイベントが進行したため、本来なら先に発生しなければならない「レストレードとの面会イベント」、および受け取るはずの「紙切れA」が消失するという事件発生。
レストレードに紙切れを見せると「私が渡した紙切れに似てますね」などと発言するので、「いや、もらってないぞ。何の話だ?」と、うっすら嫌な予感は抱いていたのだが。
おそらく全体を通して、フラグ消化が曖昧なのだと思われる。
虫メガネ探索パートの悲劇
今作がコマンド式アドベンチャーと言うことで、捜索も虫眼鏡を使って行われるようになった。
これがプレイヤーを苦しめる第二の悲劇である。
おそらく虫メガネの大きさに対して、オレンジ部分くらいしか当たり判定がないのではないだろうか。
これが少しでもずれると「べつに変わったところはない」と言われるため、画面じゅうをちょっとずつ移動しながら必死に探し回ることになる。
また探し物が見つからないと部屋から出ることもできないため、非常な圧迫感とプレッシャーで精神的にも追い詰められる。
いったん外に出よう……という、逃げなど許されない。
ロンドン中を歩きまわって疲弊したところで閉じ込められ、ひたすら「調べる」「調べる」「調べる」の無間地獄。まさにプレイヤー殺しに相応しいパートである。
おまけ:兄マイクロフトの謎
落ち着いて!
あなたもホームズよ!!
7歳上のお兄ちゃんのほうが若く見えるってどういうことなんだろう。
総評
散々こき下ろしてきたが、ゲームそのものは「ホームズファンにも大いに楽しめる」仕上がりとなっている。
前作のあまりの出来に「こんなのホームズじゃない!」という意見が届いたのかどうかは不明だが、良い意味で、原作ホームズの雰囲気がぞんぶんに味わえるゲームへと変貌した。
私自身、何度も原作のホームズを読んでいるのだが、ホームズらしさが醸し出されていると思ったのは以下の点。
・登場人物の職業(軍人、保険代理人、船乗り、教師、御者など)
・インドでの過去が絡んでいる
・いかにも怪しい人物からの脅迫があるも、本人は登場しない
・こうしたすべてを含めた、情緒あるストーリー
とくにホームズの「観察する」は、原作ばりに凝ったつくりになっているので面白い。
(中には「そう?」と思わせるものあるが……)
前作とは大違い!!
また「一つの殺人事件が起きたあとすぐ、まったく別の方向から新たな殺人事件が発生、さらにもうひとつ殺人事件が発生、という三つの方向から始まる殺人事件が一つの結末へと帰着する」という複雑なストーリーを、ホームズの雰囲気そのままにやり遂げたのは、高く評価されるべきであると思う。
不明点の多い結末、悪い意味で意外な犯人、意味不明のフラグ、基本的に鬼畜なゲーム難度等、残念な点もあるものの、ホームズファンなら一度はその雰囲気を肌で感じるのも良いのではないだろうか。
~FIN~
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